悩んでもいいんじゃない?
1998 岡山県立津山高等学校卒業
長崎大学医学部医学科入学
2004 長崎大学医学部医学科卒業
倉敷中央病院にて初期臨床研修開始
2006 初期臨床研修修了
岡山済生会総合病院外科レジデント
医師としてのターニングポイントは
僕は今岡山で外科医をしています。卒後7年目で、あの賛否両論の新臨床研修制度第一期生でした。医局にはまだ入っていません。医師としての自分を語るにはまだまだ未熟で、これから先の自分のことさえも悩み抜いている最中です。今回機会をいただき、若輩者の率直な意見が後輩たちの参考になればと思いパソコンに向かっています。
学生時代は長崎で過ごし、柔道、演劇、IPPNW(国際医師核戦争防止会議)、真冬のベラルーシ(マイナス25度)への短期留学、ちんどん屋のアルバイトなどさまざまなことをしましたが、そのころ強く思ったのは「人の縁って大事だなぁ」ということです。人とのつながりを大切にしていれば思いがけないところからチャンスが開けるものでした。その気持ちは医師になった今も同じです。
なんとか医師国家試験に合格し、新しいマッチング制度で倉敷中央病院で初期研修2年間を過ごしました。「モルモット世代」などと言われる僕たちですが、僕自身は新制度をとても楽しみました。自分の将来を働きながら熟考できるいい機会だと思います。僕も最初は麻酔科志望で部長にゴルフセットまで頂いてしまったのですが、研修が終わるころには外科志望になり、しかも後期研修は違う病院へ行ってしまい...すみません(あれ?残るように誘われなかったんだったかな...?)。実際に研修してみて、麻酔科から外科へ志望科を替えた、これが僕の第一のターニングポイントかもしれません。なにはともあれ、初期研修をともに過ごした25人の仲間は今でも僕のかけがえのない財産です。
初期研修を終えて現在の岡山済生会病院で外科医として後期研修を開始しました。岡山済生会を選んだのは症例数の多さはもちろんのこと、それに比して後期研修医の数が少なく多くの症例を経験できると考えたこと、それからあまり臓器別に科が分かれておらず、胸部、腹部、血管などを一般外科としてひとつの科でやっているところに魅力を感じました。働き始めてみると初期研修医とは責任の重さも違い、初めは病院に慣れていなかったこともありかなりハードワークでした。自分の不器用さを思い知り、手術に入るたびに怒られ続けて、「外科医に向いていないのでは」「科の選択を間違った...」と思うこともしばしばでした。しかし、多くの仲間に助けられ、また尊敬する指導医の先生方に憧れて、「自分もいつかは」という思いで今までやってきました。研修中に指導医の先生から言われた、「手術がうまくいって感謝されるのはあたりまえ。思いがけないトラブルが起きた時にも患者や家族から感謝されるような医師患者関係を築かなければならない」という言葉は非常に印象深く、僕の目指す医師像として深く心に刻まれました。
余談になりますが、国際医療や災害医療には以前から興味があり、外科医としての研修の傍ら、DMAT研修にも参加させていただき、夏休みを利用してNPOの主催する医療ボランティアでミャンマーへも行ってみました。詳しいことは省きますが、ともすると日常業務に忙殺されてしまう日々の中で、医療の原点を改めて考えさせられる良い経験となりました。昨年はJICAの緊急援助隊へも登録をすませ、今後もなんらかの形で国際医療へもかかわり続けたいと考えています。
外科医として研修する中で様々な臓器の様々な手術やその他の治療を経験し、自分の専門をぼんやりと考え始めていたころ、僕の父が職場で倒れたと連絡がありました。職場へ駆けつけた母と電話で話している最中に父は心肺停止となり、AEDの機械的なアナウンスが電話の向こうで鳴り響いていました。心筋梗塞でした。なんとか三次救急病院のICUへ入れていただきましたが、翌日帰らぬ人となりました。このとき父は命を懸けて僕に非常に貴重な経験をさせてくれました。今まで医療者として日常だったICUや救急の現場が、患者の息子という立場になった途端、きわめて非日常となったこと。医療者の些細な言動でひどく不安に思ったり、勇気づけられたりしたこと。頭では理解できても、気持ちでは理解できないこと。また、自分が医師でありながら何もできなかった悔しさが日に日に積もりました。そして、単純だと思われるかもしれませんが、救急医療の現場で働くことを決めました。これが第二のターニングポイントかもしれません。トリアージのみの救急医ではなく、外科医として患者さんの治療もする救急外科医を目指して現在は勉強中です。再度後期研修医の枠を受験し、来年度からは大阪の千里救命センターでお世話になる予定です。
医師としてキャリアを積む上で大切にしていることは
・自分の興味のある分野に正直になること。自分のQOLを考えるのは、「しんどい」と思ってからでも遅くないと思います。若いうちはまずやってみて、失敗してもやりなおせると信じています。 ・無駄だと思う仕事を無駄にしないように考えること。無駄だな、と思いながら仕事すると本当に無駄になり、人生の時間ロスになります。無理やりプラス思考で楽しくなるよう工夫する努力をしています。 ・研修先、勤務先は必ず自分の目で見て決めること。病院が自分に合うかどうかは評判や人の話だけでは分かりません。少なくとも1日は見学に行っていろんな人から話を聞いて、雰囲気を肌で感じるようにしています。
これから医師としてキャリアを積む後輩へのアドバイス
まだ僕自身がどんな医者になりたいか決められず悩んでいる最中です。ただ、流れにのまれてしまうのが嫌で、無い知恵をしぼってあがいています。こんな僕が、後輩に言えることがあるとすれば... ・迷った時には医師を志した時にどんな医師になりたかったのか、その初心に戻ってほしい
こと。 ・キャリアとか、メンツとか、出世とかいろいろあるけど、結局は患者さんのためになるか
どうかで仕事を選んでほしいこと。 ・人の縁を大事にしてほしいこと。チャンスは人の縁から生まれると、僕の尊敬する人も言
われていました。 ・こんな時代だからこそ悩んだら、安定を求めるのではなく冒険してみてほしいこと。10
年後はどうなっているかわかりませんが、今は医師不足と言われています。言葉は悪いで
すが、少々人と違った経歴でも信念さえもってやっていれば、食いっぱぐれはないので
は?と思っています。なぜか、最近安定を求める若者が多いとのことですので、変わった
ことをやろうと思っている人にとってはライバルが少ないチャンスかもしれません。 僕のこのアドバイスが正しいかどうか、僕自身の5年後が想像できない現時点ではわかりませんが、少しでも考えるきっかけになれば幸いです。 長い文章にお付き合いいただきありがとうございました。僕もこれから一生懸命頑張ります。これを読んでいただいた方と、なにかの縁でまたつながっていけたら幸せです。
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